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前橋地方裁判所 昭和34年(わ)316号 判決 1960年2月16日

被告人 木暮リン

明四二・六・一〇生 旅館経営者

主文

被告人を懲役一年および罰金五万円に処する。

ただし右の懲役刑はこの裁判が確定する日から三年間その執行を猶予する。

なお被告人が右の罰金を完納出来ない場合には金千円を一日の割合に換算した期間右の被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和二十六年十月頃から肩書住居地において「木暮旅館」を経営しているものであるが、昭和三十三年四月末頃から同三十四年十一月三日頃迄の間前後二十八回に亘り別紙一覧表記載の通り川崎成子外三名の女性がそれぞれ不特定の男客である後藤良和外十名の同表記載の男客を相手方として売春をするに際しその事情を承知しながら右の各男客等から一回四百円乃至千二百円の部屋代を徴して同旅館の客室を各貸与し、もつて売春を行う場所を提供することを業としたものである。

(証拠の標目)(略)

(本件起訴手続についての判断)

検察官は本件について、当初昭和三十四年十一月十六日付にて別紙一覧表第十四号の事実についてのみ売春防止法違反とし同法第十一条第一項に該当するものとして起訴したのであるが、その後更に昭和三十四年十二月十日付にて更に別紙一覧表第一号乃至同第十三号および同第十五号乃至同第二十八号の事実について売春防止法違反とし、同法第十一条第二項に該当するものとして別の起訴状により追起訴の形体にて公判請求をし、その後当審公判(昭和三十五年二月十六日)において検察官は昭和三十四年十一月十六日付起訴状につき訴因を「……以つて売春を行う場所を提供することを業としたものである。」と、又その罰条を売春防止法第十一条第二項とそれぞれ変更し同時に「本件は売春を行う場所を提供することを業とした包括一罪であるので昭和三十四年十二月十日付起訴状は実質的には昭和三十四年十一月十六日付起訴状の訴因、罰条の変更として取扱われ度い」と釈明した。

よつて以下に右の点について検討するに、本件各証拠によれば、被告人の本件各所為は売春防止法第十一条第二項に規定する売春の場所提供を業としてなしたものと認定することが出来るのみならず右の如く解すべき場合でありかつ又、右所為は全体としてその包括一罪であると解せられる、しかして当初の起訴にかかる公訴事実は「住込女中たる奥野勝己が客と売春をなすものたるの情を知りながらその場所を提供した」というのであつて、この所為は追起訴状記載の各個の所為と全く同種同様の所為であるから、これは右の追起訴の訴因の一部分たるにすぎないことは自明の理となるのであり、検察官の起訴としては当初より一個の起訴状により全部の事実を同法第十一条第二項に該当するものとして起訴するか又は、当初の起訴状記載の訴因を変更しかつまたこれに爾余の各所為を訴因の追加として修正するという方法によるを以つて正道となすのであるが、本件の如き措置を以つてただちに違法無効のものとして排斥することは諸種の観点から必要でないと思料する。すなわち、刑事訴訟法第三百三十八条第三号によれば「公訴の提起があつた事件について更に同一裁判所に公訴が提起されたとき」又はその他同条各号に規定する場合に該当するものとなし得る場合とはいささか趣を異にするのではないかと考えられる、すなわち本件被告人の各所為が包括的、業務性を有しており包括一罪と解せられるのみならず、訴因の修正制度と審判上の利弊および被告人の利害とを綜合的に観察し又、公訴棄却の本旨に鑑み本件についてはこれを合一に審判し特に公訴棄却の必要なきものと解する。

(法令の適用)

被告人の判示所為は売春防止法第十一条第二項、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当する一罪であるから、その所定の刑期および罰金額の範囲において被告人を懲役一年および罰金五万円に処する。ただし、諸般の情状により刑法第二十五条第一項を適用し、この裁判が確定する日から三年間右の懲役刑はその執行を猶予する。

なお被告人が右の罰金を完納できない場合においては同法第十八条によつて金千円を一日の割合に換算した期間右の被告人を労役場に留置する。

以上によつて主文の通り判決する。

(裁判官 藤本孝夫)

一覧表

番号

昭和年月日

売春者氏名等

客室名

相手客氏名

部屋代金額

1

三三年四月末

川崎成子

貴公子の間

後藤良和

七百円

2

同右五月初

右同女

十六夜の間

右同人

同右

3

三四年七月中旬

右同女

貴公子の間

金丸銑治郎

同右

4

同右八月中旬

右同女

大盃の間

小森好男

同右

5

三三年九月下旬

深谷明子

十六夜の間

佐藤徳次郎

千二百円

6

同右一〇月中旬

右同女

松波の間

五十嵐平助

七百円

7

同右一二月中旬

右同女

十六夜の間

岩田貞寿

同右

8

三四年二月中旬

右同女

松波の間

右同人

同右

9

同右五月中旬

右同女

十六夜の間

右同人

同右

10

同右八月中旬

右同女

貴公子の間

市川芳男

同右

11

同右九月下旬

右同女

貴公子の間

五十嵐平助

同右

12

同右一一月三日頃

右同女

貴公子の間

岩田貞寿

同右

13

同右二月二〇日

木暮旅館女中

奥野勝己

博多の間

中島海治

四百円

14

同右三月下旬

右同女

十六夜の間

柳井軍司

千二百円

15

同右六月初

佐藤フジエ

同右

山田某

七百円

16

同右七月上旬

右同女

同右

右同人

五百円

17

同右七月中旬

右同女

同右

右同人

千円

18

同右七月中旬

右同女

大盃の間

山田源三郎

七百円

19

同右七月下旬

右同女

十六夜の間

山田某

千円

20

同右八月初

右同女

同右

右同人

同右

21

同右八月中旬

右同女

松波の間

山田源三郎

七百円

22

同右八月中旬

右同女

十六夜の間

山田某

千円

23

同右八月下旬

右同女

同右

右同人

同右

24

同右九月初

右同女

同右

右同人

同右

25

同右九月中旬

右同女

同右

右同人

同右

26

同右九月下旬

右同女

同右

右同人

同右

27

同右一〇月六日頃

右同女

同右

右同人

同右

28

同右一〇月二一日頃

右同女

同右

右同人

同右

以上合計二八回部屋代合計金二万三千百円也

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